教員対談 TALK SESSION

2023年10月3日 教員対談【1】森川靖×平塚基志(前編)

「ヒトと陸上生態系」をめぐって森川先生と平塚先生に対談していただきました。

専門は森林環境科学。早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。早稲田大学人間科学学術院准教授を経て、2023年4月より教授。

専門は生物学、環境生態学。東京大学大学院農学研究科博士課程修了。博士(農学)。森林総合研究所 植物生態科長を経て1995年より早稲田大学人間科学学術院教授。早稲田大学名誉教授。

平塚

こちらのスライドに「CO2を排出しても森林が吸収するからOK?」とあります。

森川

環境問題の基本は排出元制御だ、ということです。

平塚

森が吸える量は限りがあるのでそれに期待しすぎるのはよくないということですね。 先送りすると当然将来世代への負担が大きくなっていきますが、そこはいかがですか。

森川

文明の初期、エネルギーというのは、化石エネルギーではなく森林だったのです。それを壊したときから実は環境問題が起きている。 5000年前の『ギルガメシュ叙事詩』の最後に、森林を壊したことによって地球上には人間にとって都合のいい生き物しかいなくなった、このような世界でよいのかと書かれている。5000年前に問題提起されているにも関わらず現実も変わっていないのはなぜかというと、問題を先送りし続けているから。それでいいのだろうか、というのがいつも私の問いかけになっています。

平塚

人間科学部は学際的アプローチを掲げています。環境問題においても文系とか理系にとらわれず、そのどちらの理解も必要になります。

森川

環境問題として表れている現象は、理系的な理解が必要です。一方でこの問題を引き起こしているのは人間活動、社会活動。そして環境問題の解決の糸口は原因と結果の理解です。理系・文系を基礎とした総合科学を謳う人間科学部で学ぶのは、ある意味で非常に大切なことだと思います。

平塚

まさに総合科学を求めるからこそ人間科学部ができたのだと思いますので、これは私どもが引き継いでやっていかないことだと理解しました。 もう一つは先送りのテーマについてですけど、なぜ今なのかというところになりますがいかがですか。

森川

あのときああすれば良かったというのはもうだめですよ、ということです。社会を動かしている人たちは、いま、やるべきことをやるということを念頭に入れてほしいと思いますね。

平塚

森川先生がずっとおっしゃっている「基礎がわかれば応用がきく」。改めましてこちらについてもおうかがいしたいと思います。

森川

水切りをして花瓶に挿すと花の持ちが良いことを習慣的に知っているけれども、その理由を知らない人が多いです。現象とその理由を知っていれば理解できるようになる。だから基礎をちゃんとやりましょうということです。

平塚

日常生活の中で見聞きしてわかっていることがなぜそうなのかを理解することによって、何か起こったときに応用できるということかと思います。このあたりは講義を通して学生の反応をみながらお考えになったのでしょうか。

森川

eスクールではすでに社会生活をされている方が多く学んでいますが、いろんな現象、見たり経験したりしていることに疑問を持ってほしいんですよね。疑問を持つそしてそれが解決することによって進歩する。すると他のことについても同じように理解する力がつくと思います。

平塚

森林なり色んなフィールドに出て行って調査研究をすることがあります。五感を使って実測をするのですが、この辺りの重要性について改めてお聞きしたいと思います。

森川

環境問題の基本は、暑い寒いではなく、平均気温が何度上がったかというように具体的な数字で表すことです。それで学生実習でも近所の木のサイズを測るというのをやっていました。

平塚

五感を使った実測を通して定量化することが自然科学の役割。それをどう使うかが総合科学としてのアプローチになると思います。