教員対談 TALK SESSION

2024年3月11日 教員対談【2】池岡義孝×松木洋人(前編)

「家族社会学」をめぐって池岡先生と松木先生に対談していただきました。

池岡 義孝
専門は社会学、家族社会学。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。早稲田大学文学部助手、早稲田大学人間科学部専任講師、助教授を経て、2005年4月から人間科学学術院教授。早稲田大学名誉教授。

松木 洋人
専門は社会学、家族社会学。博士(社会学)。早稲田大学人間科学部助手、東京福祉大学短期大学部専任講師、⼤阪市⽴⼤学大学院生活科学研究科准教授を経て、2023年4月より早稲田大学人間科学学術院教授。

松木

この対談では、池岡先生がeスクールで「家族社会学」をどのように教えてこられたのか、それを私がどう引き継いでいるのかをお伝えできればと思います。

池岡

「家族社会学」の授業の導入として二つのアンケートを行っていました。 「家族についてのアンケート その1」ではペットや故人などさまざまなものをあげる学生もいて、人によって家族の定義が違うことがわかります。「家族についてのアンケート その2」は、大学に提出するという前提で記入してもらいます。すると、その1と異なる回答をする学生がいるのです。このことから、家族の定義は、状況や場面によっても異なるということがわかります。

池岡

多くの人は家族のイメージを捉えるときに、夫婦と未婚の子どもから構成される核家族をもとにしています。それに加え、夫婦と親子には、愛情があって仲睦まじいというイメージが付与されています。 ただしこのモデルは、近代社会になってその社会構造や働き方に適合的なものとしてできたものです。 現代社会は近代社会の延長線上にありますが、近代社会の前の前近代社会と近代社会には大きなギャップがあります。家族のあり方はそれぞれの社会に対応しており、前近代家族と近代家族は大きく異なるのです。

池岡

近代家族の特徴として指摘される8つの項目をもとに、前近代家族と近代家族の違いを考えてみましょう。 前近代社会は農林漁業、自営業で生活していました。家族と仕事が一体であり、家族は共同体のなかに埋もれていました。 近代社会では、産業革命により工場労働者やサラリーマンが登場して、家族と仕事が分離されていきます(家内領域と公共領域の分離)。さらに工場法の制定などで労働の最前線にいた子どもや女性は家族が主な居場所となり、性別分業が進みます。女性が専業主婦になり、愛情をもって子育てするようになります(子ども中心主義)。そして家族成員相互の強い情緒的つながりが規範化されます。こうして家族は共同体から自立して閉じたものに変化していきました(社交の衰退、非親族の排除)。 前近代家族から近代家族へと家族は変容していきましたが、現代社会にあっては、すでに近代社会の安定も失われ、家族のあり方はさらに多様化しています。それにも関わらず、日本の政策や人々の意識は、近代家族のそれに対応したものから変化していません。これが現代の家族問題の原因といえます。